「半年頑張っても動員が10人前後…そんな悩みを抱えるアイドル運営者は多い。でも、その原因は「ダンスが下手」「歌唱力が足りない」ではなく、もっと根本的な問題だ。それは「ターゲット層の設定ミス」である。」
そんな投稿で賛否両論を巻き起こしているのは、SNS総フォロワー36万人・元UUUMクリエイターの太郎アゲアゲさん(@taroageage)。
普段は企業向けSNS集客やTikTokの運用代行を行なっているという太郎さんから見る、アイドル業界の課題を聞きました。

インタビュアー:青島ほなみ(アイドルメディアMAITSU編集長)
アイドル好きが高じてMAITSUを開設、過去50組以上のアイドルを取材。
元アイドルマネージャー。
――今回の投稿、12/12時点で110万インプレッション。かなり反響が大きかったですよね。まずは、そもそもどうしてあの投稿をしようと思ったんですか?
太郎:ぶっちゃけると……Xの収益化狙いです(笑)。
月間300万インプを達成すると収益化できるので、「一発当てる投稿」が必要で。最近Xをサボり気味だったので一発当たる投稿をしようと思ったのが理由です。
――理由が素直すぎて逆に気持ちいいです(笑)。でも確かに、アイドル界隈って話題になりやすい空気ありますよね。
太郎:どの業界が当たりそうかを考えた時に、アイドル界隈って熱量が高いんですよね。賛否が起きやすい。
でも、ただバズらせたいだけじゃなくて、ファンや関係者の気付きにもなればいいなと思って書きました。
投稿が長いのは、Xの滞在時間やプロフィールへの転換率のアルゴリズムを意識したからです。
――太郎さん、元UUUMクリエイターですが、アイドル運営経験もあるんですよね?
太郎:あります。「あっぷろーでぃあ」というグループを運営してました。
最近メンバーと久々に会って話してたら、当時気付けなかった戦略の盲点がたくさん見えてきて。
――なるほど。その「当時は気付けなかったこと」が、今回の投稿につながっているわけですね?
太郎:そうです。細かく市場調査して書けばアンチも減ったと思うんですが……
あえて抽象的にしてアンチを呼び込むつもりもありました(笑)。
2割くらい批判が来ると思ってたら、実際は5割。想定以上に伸びましたね。
――投稿の核にあった「既存アイドルファンを狙うのは罠」という部分、私も元アイドル運営として耳が痛かったです。
具体的にはどういう状況を指しているんですか?
太郎:一番多かったのが、既存ファンの食い合いだけで終わっているパターンですね。対バンに出て、すでに推しがいる人に向かってライブして……これ、基本的に増えないんですよ。
そもそも既存のアイドルファンの行動パターンって、実はかなり限定的なんです。
推しがいる人の多くは、その推しだけを見ています。ライブ現場には「最前管理」という文化があるくらいで、他のアイドルにはほとんど目が向かない。仮にステージで気になったとしても、特典会まで来てくれる確率はかなり低いんです。
つまり既存ファンを狙うということは、すでに別の推しを持つ人に「推し替え」をしてもらうという、難易度の高い戦いを挑むのと同じなんです。ビジネス的に見ても、ものすごく効率の悪いアプローチなんですよね。
――「ライブしてるだけ」では失敗だと。
太郎:ライブだけじゃなくて、SNSの発信を工夫する・イベント営業をするとか、やれることはあるのに「俺ら副業としてやっていけるっしょ」みたいになってる運営が多い印象ですね。
あと、ただ踊ってる動画は見られても伸びない。
最終的には顔で勝負になっちゃうから、 「アイドル × ○○(特技・趣味)」 の組み合わせが強いんです。
男性の好きな趣味とアイドル要素が噛み合うと、一気に取りやすいと思います。
――「ライブパフォーマンスのクオリティを上げればファンは増える」ってよく言われますよね。それについてはどう思いますか?
太郎:必要ですけど、それだけじゃ足りないと思います。ラーメン屋だって、美味しくても場所が悪かったら誰も来ないじゃないですか。実力があっても、見つけてもらえなきゃ意味がないんですよね。
なんで運営が「クオリティを上げればなんとかなる」って思うかというと、単純にその方がやりやすいからなんですよ。練習増やすとか、衣装を良くするとか、振付を難しくするとか……これは全部、内側だけで完結する努力なんで分かりやすい。
逆に、「売り方を工夫する」とか「ターゲットを決める」とか「新規層にアプローチする」とかって、ちゃんと市場を見たり、試行錯誤したり、ビジネスっぽい作業が必要になる。こっちはどうしてもやりにくいんですよ。だから、分かりやすい方に逃げちゃって、「クオリティ上げればいける」ってなっちゃうんだと思います。
――なぜ多くの運営は、ターゲット設定をちゃんとやらないんでしょう?
太郎:周りもやってないから合わせてるってのもあると思いますし、振付とか衣装って「努力してます感」が出るんですよね。でも売り方とかマーケは地味だし時間もかかるし……そこに労力やお金を割けない、っていうリアルもあると思います。
――たしかに実際、自転車操業で回しているグループも多いですもんね。
太郎:だから今回の投稿は、「人もお金も最低限あるグループ」を想定して書いてます。
――太郎さんが実際に運営していた頃新規ファンをどう開拓したか、リアルな部分も教えてほしいです。
太郎:ショート動画は週3〜4本。TikTokは3万人まで伸びました。
対バンよりも、SNS経由で来てくれるファンのほうが圧倒的に多かったですね。
アイドルファンと競争しなくても、家族連れやアイドルに興味ない友達が来てくれたり。
――集客ルートが全然違ったんですね。
太郎:でも、僕はアイドル知識がない状態で始めちゃったので……段々と各自のリソースが合わなくなって、メンバーとも噛み合わなくなっていきました。
結局、資金力の差がデカいんですよ。
100万円使える事務所と、1万円しかない所じゃ、できる施策も人数も違う。
母数がなければライブには呼べない。
「戦い方を変えないと勝てない」と思いました。
――やっぱり資金力って大事なんですね。そこが違うだけで、できる施策も動かせる人数も変わってくる、と。またアイドルを運営をやりたい気持ちはあるんですか?
太郎:SNSで伸ばして集客するのは得意なんですけど……僕、女の子のマネジメントが苦手なんですよ(笑)。
投稿を促したり、熱量を上げる声掛けが上手じゃない。
そこを得意な人がいれば、またできるかもしれません。
――SNSコンサルの文脈を、アイドル界隈にそのまま持ち込むのは難しい、という意見も多かったですよね。
私も「確かに…」と思う部分があったんですが、実際どう感じました?
太郎 :言いたいことはめちゃくちゃ分かります。
アイドル業界が激戦区ですし。逆に、コメントを読んでいて、こんなに熱量の高い人がたくさんいるんだなっていうのが気付きです。
ーーアルゴリズムじゃ測れない、ファンとアイドルのあいだの想いとか感情みたいな部分も、確かにブレイクには欠かせない気がします。
アイドル運営へひとつアドバイスをするとしたら、何を一番に伝えたいですか?
太郎:まず SNSは絶対やる。
そして、メンバーのヒアリングをちゃんとすること。
趣味・特技・強みを言語化して、わかりやすく見せる投稿や動画を作る。
僕はそこができてなかったので。
――バズった後の動線作りも、ファンに来てもらう上ではめちゃくちゃ大事ですよね。SNSとオフラインをどうつなぐかというか。
太郎:大事だと思います。
例えば、「初めてライブに行く人はこう動く」というフローを動画にして投稿したり、公式LINEに誘導して「気になったメンバーを送ってくれたらチェキ券プレゼント」みたいな仕組みを作ったり。
どうやったらバズるかの型はだいたい決まってると思うので、それを当てはめていくイメージですね。
――今回の投稿で、一番伝えたかったことは何ですか?
太郎:一番言いたかったのは、ほんとにシンプルで。
「既存ファンだけ見てても広がらない」「クオリティだけじゃなくて、売り方も考えるべき」というだけなんです。
――確かに、あの投稿って業界全体にモノ申してるようにも読めたんですよね。
太郎:強い反発が来たのって、多分アイドル業界を否定してるって受け取られたからだと思うんですけど、実際は逆で。
「もっと良くできるのに!」って気持ちから、あえて踏み込んだ言い方をしただけなんです。
――伝え方の温度で、受け取り方が変わっちゃったパターンですね。
太郎:でも、「参考になった」「運営に届けたい」みたいな前向きなコメントも多くて、それは嬉しかったです。
――確かに賛否両論ありましたよね。引用RPもすごかったですし。
太郎:賛否が出るって、それだけ多くの人の価値観を刺激できたってことでもあると思うんですよ。反発も、共感も、両方あって初めて議論になる。
だから僕としては、どっちの意見もあったからこそ、この投稿は意味があったなって思ってます。
――では最後に、Xの収益化は無事狙えそうですか?(笑) 結果が気になります。
太郎:300万インプ達成したので、3ヶ月後には通知が来るはず。
いくら入るか楽しみですね!
